東京高等裁判所 昭和28年(う)2097号 判決
被告人 村瀬直民
〔抄 録〕
論旨第一点。
本件起訴状によれば被告人に対する公訴事実は被告人が相互銀行法第二三条の規定に違反して大蔵大臣の免許を受けないで相互銀行業を営んだものであるというに在る。
ところで、相互銀行法第二七条は所謂両罰規定であつて、その趣旨は法人の代表者、代理人、使用人、その他の従業者或は人の代理人、使用人、その他の従業者がその法人或は人の業務に関して同法第二三条、又は第二四条の違反行為をしたときはその行為者を罰するのみならず、直接行為をしなかつた法人或は人をも罰し得る(但し罰金刑のみ)というのであつて、即ち直接の行為者だけでなくその行為者と同法第二七条の関係にある法人或は人をも処罰し得るという規定である。従つてこの法人或は人が処罰される場合には行為者とその法人或は人との間に同法第二七条に規定する如何なる関係が在るかということはこれを起訴状に明記しなければ訴因の明確を欠くことになるのであろうが、同法第二三条違反の行為者自体を処罰する場合にはその者が法人或は他人と如何なる身分関係にあるかということは必ずしもこれを明記する必要はないのである(もつとも自己の業務としてではなく法人或は他人の業務として行為をした場合にはその法人或は他人との間の身分関係を明確に表示するのを妥当とはするが)。
何となれば 行為者は法人の代表者或は法人又は他人の代理人、使用人、その他の従業者であることは何等必要としないのであるからであつて、右第二七条に所謂身分は罪となるべき事実には全く関係がないからである。
従つて本件起訴状には罰条として右第二七条が引用されているが、本件公訴事実は前述のように行為者自身である被告人の処罰を求めるものであるから、引用する必要のない法条を引用したにすぎないものであつて、もとよりこれは何等判決に影響を及ぼすものではない。
所論は同法第二三条の違反行為は法人の代表者或は法人又は人の代理人、使用人、其の他の従業者でなければ成立しないものと誤解しているもののようであつて、これに基づき独自の法律論を展開するものである 本件起訴状には所論のような違法は全く存在せず、従つて原判決には所論のような違法の存するものとは認められない。論旨は理由がない。